法律相談は大阪の同心法律事務所 HOME > よくあるご質問
相談料は必要でしょうか。
労災事件、労災損害賠償事件、労働事件(解雇・残業代請求など)、破産・任意整理・個人再生・過払い金、交通事故のご相談(初回)については無料としております。
その他の分野でも状況によっては無料で対応いたします。
メールでの相談は可能ですか?
メール相談は受け付けておりません。
ご相談の申し込みをメールで下さるのは構わないのですが、受任する前の初めてのご相談をメールでやり取りすることは行き違いや内容がうまく伝わらない危険があるため、メールでのご相談は原則として行っておりません。ただし、顧問契約があるなど継続的な相談がある場合にはメールや電話やスカイプなどを通じてご相談に応じています。最初のご相談は原則として面談のうえ直接対面してご持参の資料をもとに行うようにしておりますので、電話、メールで相談の予約をしていただけますようお願いいたします。
状況によっては電話での相談は可能な場合がございますので、お問い合わせ下さい。
事務所から遠方ですが、事件や相談をお願いできますか。
もちろんできます。正式に受任する場合には必ず直接面談しますが、事務所には一度は来ていただくか、当方の方から依頼者の方のご都合のいい場所に出向くなどして直接面談のうえ、受任いたします。
場合によっては可能です。正式に受任する場合には必ず直接面談をいたしますが、当事務所から遠方の依頼者の方の事件を多数受任してきましたし、現在も遠方の事件などを担当しております。通信手段が劇的に進展したこともあり、電話、スカイプ、メールといった手段を用いて、事件などの打合せを行い解決までに至っております。これまでの実績によると、北海道、青森、仙台、群馬、千葉、東京、神奈川、山梨、静岡、愛知、鳥取、高松、愛媛、岡山、広島、山口、福岡、大分、佐賀、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄などの地域の依頼者の方の事件などを受任してきております。私としては遠方によるハンデはほとんどないと考えています。
遠隔地からの依頼だと費用がかかると思うのですがどうでしょうか。
費用(実費・主に交通費になると思いますが)がかからないように工夫しています。遠隔地で費用が増える項目として交通費が大部分と考えられますが、打合せの密度を濃くして移動回数を減らす、他の出張の日程に合わせてもらってそこで面談をする、裁判を電話会議にする、スカイプなどを活用して直接面談の打合せと同等の効果を図るなどして、依頼者の方の交通費が嵩まないように工夫しております。詳細は直接電話などでご相談下さい。
実際、熊本の残業代の請求を一審から控訴審まで担当しましたが、受任を前提に電話、スカイプで突っ込んだ打合せを重ねて訴訟の準備をほぼ終わらせた段階で、他の九州出張の日程に合わせてもらって熊本駅の喫茶店で直接面談し、証人候補の人もその場でお会いしたのが1回、裁判所の出張も電話会議を活用したため、証人尋問を含めて3回のみ熊本地裁に出頭し判決(勝訴判決)に至り、控訴審は一度だけ福岡高等裁判所に出頭しただけでした。また、高松の解雇事件の場合、一度だけ依頼者の方に事務所に来ていただいて、その後はスカイプ会議、裁判所に出頭した際に打合せを完結させてしまうようにしましたので、依頼者の方の交通費の負担は無視できる程度のものとなりました。
着手金は必要ですか?
着手金が不要なやり方もしております。費用が用意できないという理由だけで依頼をお断りしたことはございません。お気軽にご相談下さい。状況に応じたやり方をともに考えたいと思います。労災事件、労災損害賠償事件、労働事件(解雇事件や残業代請求)、交通事故の損害賠償請求事件、過払い金請求などでは完全成功報酬制(着手金0円)で行うこともしばしばです。
平日の受付時間(9時から18時)に相談に行けないので、夜間や土曜日、日曜日、祝日に相談できますか。
ちろん可能ですが、あらかじめ電話でご予約のうえお願いいたします。
救急医療と同じように、直ちに対応しなければならない問題がありますので、そのような場合には、可能な限り24時間365日対応します。事務所と自宅が近い(自転車で10分足らず)ので、フレキシブルに対応できると思います。
他の弁護士に相談していますが、セカンドオピニオンを求めることはできますか。
もちろん可能です。依頼者の方もそのことをはっきり述べられてご相談される方もいらっしゃいます。私の依頼者の方やご相談者の方にも私が示した方針や回答が絶対的に正しいとは限らないので、私以外の弁護士に相談することを勧めることがございます。
労災(過労死、過労自殺(自死)、労災事故)について弁護士にどの段階から相談するのが最もいい時期はどの段階でしょうか。
労災申請を決意されて資料収集などの活動前です。労災認定の場面や労災認定後の損害賠償請求において、最も重要なのは初動(最初の良質な証拠の確保・客観的な証拠と関係者の供述)であります。初動段階でうまくいけば最後までうまくいくことが多く、逆に初動を誤れば、それを挽回するのは簡単ではありません。労災事件の経験の浅い弁護士はこの重要性を分かっていない場合が多いように思います。証拠確保にはいろんな手段がありますが、依頼者の方が闇雲に集めるより適切な方法と時期をにらんで依頼者の方と弁護士がともに考えることが重要です。
労災申請を検討していますが、親類や会社の人から反対されていますが、どうしたらいいでしょうか。
御自身のため、家族のため、お子様のため、労災認定されることによる補償を最優先にすべきだと思います。周りで根拠なく反対する人が多いですが、果たしてそのような方が生活保障をしてくれるのでしょうか?
まずはご相談下さい。
労働衛生と労災補償の分野において、労働時間規制とならんで安全衛生の確保に最大の関心を向けた分野であり今日においても最も重要な課題といわれているのはなぜでしょうか。
労働基準法(労基法)が労働現場での無視・形骸化しているため、事故や労働災害が起こりやすくなっています。労働衛生と労災補償と繋がっています。「たしかに裁量労働制については、業務遂行の手段や時間配分の決定は労働者自身に委ねられるが、最も重要な意味を持つ労働の量や期限は使用者によって決定されるので、命じられた労働が過大である場合、労働者は事実上長時間の労働を強いられ、しかも時間に見合った賃金は請求しえないという事態が生じる」(西谷労働法306頁・裁量労働制の見なし時間における)という状況があります。
労働者は、自己申告書をめぐる上司との面談のなかで、徐々に目標を自ら引き上げるように励まされ誘導され、過重ノルマの達成を「約束」してしまう(熊沢・「格差社会ニッポンで働くということ」・175頁)現実があると思います。
過労死・過労自殺・労災事故・アスベスト(石綿)関連の労働災害(労災)や損害賠償の問題が頻発しているのは、労働基準法や労働安全衛生法が機能していない現実があります。
労働災害(労災)や労働衛生やこれにまつわる損害賠償が頻発する中、裁判所も国(厚生労働省)も無法状態を放置できない事態になっている認識があると考えます。そのため、これらの分野においては裁判例と通達の連動していることに注意する必要があります。
電通事件最高裁判決:平成12年3月24日第2小法廷判決平成10年(オ)第217号、第218号損害賠償請求事件
「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条の3は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである」
↓下記通達は電通最高裁判決を踏まえている
厚生労働省平成13年4月6日基発第339号:
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」をもって、使用者に労働時間を適正に把握すべき義務があることを確認した上、始業終業時間の確認記録は、使用者が自ら現認するか、タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認、記録することを原則とし、自主申告により行なわざるを得ない例外的な場合にも、労働者に対して労働時間の実態を正しく記録し、適正に自主申告を行なうことなどについて十分な説明を行なうことを義務付けている。
↓創設的な義務ではなくもともとあった義務を確認した
労働時間に関する制限を定めた労働基準法、並びに作業の内容等を特に限定することなく事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨定めた労働安全衛生法(65条の3)からして、当然使用者が労働者に対して負うべき義務であり(電通過労自殺事件最高裁判決参照)、前記通達はこの義務があることを前提として、その適正な把握方法についての確認をしたもの
タイムカードを実際より早い時間に打刻するように会社から指示されているため、タイムカードは実際よりかなり短い時間しか記録されていませんが、それでも労災や残業代請求をすることができますか?
できます。実際に働いた時間を他の証拠(警備記録、手帳、ETC ピタパやスイカやパスモなどの乗車カード、パソコンの記録や証言)で裏付けることができますので、タイムカードが実際の内容と異なっても過労死や過労自死の労働災害の労働時間算定や残業代請求において認められる可能性が十分あります。
ゴムノイナキ事件(大阪高判平成17年12月1日労判933号69頁)は、「タイムカード等による出退勤管理をしていなかったのは、専ら被控訴人(使用者側)の責任によるもの」「休日出勤・残業許可願を提出せず残業している従業員が存在することを把握しながら放置」「具体的な終業時刻や従事した勤務内容が明らかでないことをもって、時間外労働の立証が全くなされていないとして扱うのは相当ではない」「提出された全証拠から総合判断して、ある程度概括的に時間外労働を推認するほかはない」として、時間外労働時間を認定しています。
波多野が担当した鹿児島地裁判決(ファミレス店長過労障害事件)においては、警備記録を基本に労働時間を算定しています。
・波多野が担当したゼネコンの副所長の過労死事件では生前の手帳だけで労働時間認定されています。
波多野が担当した国立循環器病センター事件では超過勤務命令簿はあるが実態とかけ離れて少ないものでしたが、同僚看護師の証言・供述を基本に超過勤務が認定されました。
日本コンベンションサービス事件(大阪高判平成12年6月30日労判792号103頁)では時間外労働がなされたことが確実であるのに、タイムカードがなく、その正確な時間を把握できないという理由のみから、全面的に割増賃金を否定するのは不公平」として、原告主張の労働時間の2分の1については労働したものと推計しています。
警備会社の過労死事件では「スルッとカンサイ」という磁気の乗車カードがほぼ全て残っていたため、その履歴をもとに労働時間を算定して時間外労働が認定されました。
このような裁判例や実例がありますので、タイムカードがなかったりそれが実際の時刻と異なったとしても十分戦うことできます。
会社が管理職に対して残業代を支払わない扱いにしていますが、管理職(課長や部長など)でも残業代を請求することができますか。
できます。
管理監督者問題(名ばかり管理職・労基法41条)で、課長職以上は残業を支払わない違法な取扱いをするに伴って労働時間管理を放棄している(仮に監理監督者に該当したとしても健康障害防止のため労働時間管理は必要)するとともに古くて新しい問題といえます。
労基法上の管理監督者に該当するかどうかは、
ⅰ 労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的立場にある
ⅱ 出退勤について自由裁量性がある
ⅲ その地位にふさわしい賃金等で処遇上の優遇措置がなされている
ことを総合的に評価して判断されることになっていて、裁判実務において管理監督者性が肯定されることはまずないと言えます。
裁判例としてはアクト事件(東京地裁平成18年8月7日判決・労働判例924号51頁・飲食店のマネージャー)、平成22年2月166日鹿児島地裁判決(確定・労働判例1004号112頁、判例時報2078号89頁・波多野担当)やいわゆるマクドナルドの店長の残業代請求事件など多数あります。
労働者のミスによって怪我を負ったり死亡するなどの労働災害(労災事故)が発生した場合に、事業主に損害賠償を請求することができますか。
できます。
労働者はミスを起こすことを前提に労働安全衛生法やその規則などができています。損害賠償の場面で労働者側に過失があったとして損害額が縮小される過失相殺の問題にはなりえますが、不注意やミスによっても事故が起こらない仕組み・教育・装備が具備すること自体が事業主の責任となります。「常に考えていただきたいことは、たとえ労働省令の小さな一条文であっても、それが制定されるまでには多くの労働者の血が流されていることであろう。したがって、1条1条を大事にして、悲惨な労働災害をなくすためにも是非、労働安全衛生法を十分に理解して活用していただきたい」(労働安全衛生法・井上浩・中央経済社・はしがき)と記載がなされているとおりです。
会社が長時間労働等過重な業務をさせていたのに、うつ病になったり自殺するとは気づかなかった、脳梗塞や心筋梗塞といった脳・心臓疾患になるとは思わなかったということで責任を免れようとしていますが、そのような弁解が通用するのでしょうか。
使用者は責任を免れず、損害賠償請求することができます。
上述の電通最高裁判例は「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条の3は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである」(電通事件最高裁判決:平成12年3月24日第2小法廷判決平成10年(オ)第217号、第218号損害賠償請求事件)。と明言しています。うつ病になっているとか自殺の可能性と可能・心臓疾患の認識の有無を問題としているのではなく、電通最高裁判例は業務量といった過重業務の認識の有無を問題にしていますので、業務量があり長時間労働等の過重業務に従事していることがあるのでしたら、それ以外の認識があろうがなかろうが会社は責任を負います。
1ヶ月の時間外労働が100時間を超え、疲労の蓄積が認められる者で、面接を申し出た者について医師による面接指導の義務化がなされていますが、この面接指導が行われた場合に使用者の責任はなくなるのでしょうか。
使用者の免責事由にはならないと思われます。電通最高裁判例から、使用者が行うべきは死亡の危険のある業務の回避であるので、100時間を超える時間外労働を行わせるなどの心身の健康を損ねる危険のある過重業務を行わせている以上、責任があると言えます。
名目的な取締役で特別加入制度ではなく本来なら通常の労災が適用される事案であるのに特別加入している場合、通常の労災が適用されますか。
適用される可能性があります。
弘容商事事件(大阪地裁平成11年7月28日判決・労働判例776号60頁)では、当該労働者は、特別加入していた事実があったが、本裁判例は「労働基準監督署においては、個人事業の場合、原則として事業主と同居の家族は労働者性がないものと扱うことになっていることから、保険適用をうけるべく、特別加入という手続を選択したものにすぎない」として、特別加入の事実をもって労働者性を否定することはできないしています。
主人は取締役として働いていましたが、長時間労働によって心筋梗塞を発症してなくなったのですが、労災と認められるでしょうか。
取締役という地位に就いていたとしても、労災と認められる可能性があります。
労働法全般に言えることですが、労災の分野でも形式より実質からみて労働者といえるのかどうかで決まります。
大阪中央労基署長(おかざき)事件(大阪地裁 平15.10.29判決・労働判例866号58頁)は、60歳専務取締役が急性循環不全事件ですが、労災法上の「労働者」は,労基法上の「労働者」と同-のものであると解するのが相当 であり,「労働者」に当たるか否かは,その実態が使用従属関係の下における労務の提供と評価するにふさわしいものであるか否かによって判断すべきものとして、出張中にホテルのベッドの上で急性循環不全により死亡した専務取締役が,専務取締役に就任後も,就任以前に担当していた業務に格別変更はないことをみれば,被災者が専務取締役に就任したことをもって直ちに本件会社との使用従属関係が消滅したとはいえず,また本件会社との雇用契約が合意解約されたともいえず、労災法でいう「労働者」が,実質的概念である以上,被災者の呼称が専務取締役とされていることや,被災者の認識が専務取締役だったとしても,直ちに被災者が「労働者」性を喪失していたとはいえないとして労働者性を肯定して労災の適用の可能性を肯定しています。
業務中に怪我をしましたが、社長からうちは労災に入っていないから労災申請できない、労災の支給はされないと言われましたが、本当でしょうか。
嘘です。ちまたで使用者が無知な労働者にうその説明をして申請を断念させる典型といえます。労災の加入手続きを使用者が怠っていたとしても労災は強制加入ですので、成立しています。使用者が労災加入手続きを怠っているだけで労災認定はされます。
会社の担当者が労災申請をしないといっています。会社が労災申請書に押印(協力)がないと労災申請できないのでしょうか。
会社の押印がなくても労災申請できます。労災申請の主体は労働者やその遺族で会社の協力がなくても労働者や遺族が労災申請できます。
職場ではなく自宅で脳梗塞によってなくなった場合でも労災となるのでしょうか。
場所は重要ではありません。発症の原因が業務といえるのであれば、自宅であろうが職場であろうが関係なく労災と認められます。意外と多い誤解と思います。
対象疾病に掲げられていない疾病でも労災と認められますか。
認められる可能性があります。
業務と発症との間に因果関係がある限り、対象疾病に掲げられていなくても労災として認められます。対象疾病はあくまで例示・対象疾病の場合特段の反証のない限り業務に起因する疾病という意味に過ぎません。対象疾病以外で例えば、ぜんそく、十二指腸潰瘍、心筋炎などの疾病でも労災と認められた実例があります。要は過重労働、過労ストレスによって発症・増悪したかどうかであります(増悪も入ります。)。
例えば、平成7年2月1日付け基発38号通達(旧基準)先天性心疾患等(高血圧性心疾患、心筋炎等を含む。)についての通達において「先天性心疾患等を有していても、その病態が安定しており、直ちに重篤な状態に至るとは考えられない場合であって、業務による明らかな過重負荷によって急激に著しく重篤な状態に至ったと認められる場合には、業務と発症との関連が認められる」としており、現行の認定基準でも「認定基準では、先天性心疾患等に関する考え方は明記されていないが、旧認定基準における取り扱いを変更するものではない」として、以前と同様に労災の対象になりうることを前提としています。
また、最高裁三小平成16年9月7日判決(ゴールドリングジャパン事件・労働判例880号42頁以下)では、消化器系の疾患の事案において、ヘリコバクター・ピロリ菌に感染し,慢性十二指腸かいようの既往症を有する労働者が、国内出張、海外出張の過密な日程かつ長時間勤務、有力な取引先と外国人社長とともに行うという精神的負担のかかる業務に従事したことによって、通常の勤務状況に照らして異例に強い精神的及び肉体的な負担が掛かっていたものとし、本件各出張は,客観的にみて,特に過重な業務であったということができるところ,本件疾病について,他に確たる発症因子があったことはうかがわれない。そうすると,本件疾病は,上告人の有していた基礎疾患等が本件各出張という特に過重な業務の遂行によりその自然の経過を超えて急激に悪化したことによって発症したものとみるのが相当であり,業務の遂行と本件疾病の発症との間に相当因果関係の存在を肯定することができる。本件疾病は,労働者災害補償保険法にいう業務上の疾病に当たる業務遂行中に発症したと認めています。
過労死:脳・心臓疾患の行政基準はどのようなものですか。
災害主義から蓄積疲労へ
おおむね6か月間についての週40時間を超える時間外労働時間80ないし100時間が対象
*労働時間偏重主義の弊害
↓司法の場では・・
多くの裁判例において、労働時間(量的過重性)だけでなく、業務内容(精神的緊張を伴う業務、不規則勤務など)を総合的に評価して過重性の有無を検討している。詳細は以下のとおりです。
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/040325-11.html
厚生労働省は以下の発表をしています。報道発表資料(平成13年12月12日)
脳・心臓疾患の認定基準の改正について
1 「過労死」の労災認定については、平成7年2月に改正した「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」(以下「脳・心臓疾患の認定基準」という。)に基づき行ってきたところである。
このような中、平成12年7月、最高裁判所は、自動車運転者に係る行政事件訴訟の判決において、業務の過重性の評価に当たり、脳・心臓疾患の認定基準では具体的に明示していなかった慢性の疲労や就労態様に応じた諸要因を考慮する考えを示した。
2 このため、医学専門家等を参集者とする「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」において、疲労の蓄積等について医学面からの検討が行われ、平成13年11月16日に検討結果が取りまとめられた。
3 厚生労働省では、この検討結果を踏まえて、脳・心臓疾患の認定基準を改正し、平成13年12月12日付けで厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長あて通達したところである。
厚生労働省では、新認定基準に基づき、迅速・適正な労災認定を行うよう、努めていくこととしている。
4 新認定基準の主な改正点は、次のとおりである。
(1)脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、長期間にわたる疲労の蓄積を考慮することとしたこと(長期間の過重業務)。
(2)(1)の評価期間を発症前おおむね6か月間としたこと。
(3)長期間にわたる業務の過重性を評価するに当たって、労働時間の評価の目安を示したこと。
(4)業務の過重性を評価するための具体的負荷要因(労働時間、不規則な勤務、交替制勤務・深夜勤務、作業環境、精神的緊張を伴う業務等)やその負荷の程度を評価する視点を示したこと。
5 新認定基準の概要は、別添のとおりである。
(別添)
脳・心臓疾患の認定基準の概要
1 基本的な考え方
(1) 脳・心臓疾患は、血管病変等が長い年月の生活の営みの中で、形成、進行及び増悪するといった自然経過をたどり発症する。
(2) しかしながら、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合がある。
(3) 脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、発症に近接した時期における負荷のほか、長期間にわたる疲労の蓄積も考慮することとした。
(4) また、業務の過重性の評価に当たっては、労働時間、勤務形態、作業環境、精神的緊張の状態等を具体的かつ客観的に把握、検討し、総合的に判断する必要がある。
2 対象疾病
(1) 脳血管疾患
ア 脳内出血(脳出血)
イ くも膜下出血
ウ 脳梗塞
エ 高血圧性脳症
(2) 虚血性心疾患等
ア 心筋梗塞
イ 狭心症
ウ 心停止(心臓性突然死を含む。)
エ 解離性大動脈瘤
3 認定要件
次の(1)、(2)又は(3)の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、労基則別表第1の2第9号に該当する疾病として取り扱う。
(1) 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと(異常な出来事)。
(2) 発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと(短期間の過重業務)。
(3) 発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと(長期間の過重業務)。
4 認定要件の運用
(1) 脳・心臓疾患の疾患名及び発症時期の特定について
ア 疾患名の特定について
脳・心臓疾患の発症と業務との関連性を判断する上で、発症した疾患名は重要であるので、臨床所見、解剖所見、発症前後の身体の状況等から疾患名を特定し、対象疾病に該当することを確認すること。
イ 発症時期の特定について
脳・心臓疾患の発症時期については、業務と発症との関連性を検討する際の起点となるものであるので、臨床所見、症状の経過等から症状が出現した日を特定し、その日をもって発症日とすること。
(2) 過重負荷について
過重負荷とは、医学経験則に照らして、脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷をいう。
ア 異常な出来事について
(ア) 異常な出来事
a 極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態
b 緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態
c 急激で著しい作業環境の変化
(イ) 評価期間
発症直前から前日までの間
(ウ) 過重負荷の有無の判断
遭遇した出来事が前記(ア)に掲げる異常な出来事に該当するか否かによって判断すること。
イ 短期間の過重業務について
(ア) 特に過重な業務
特に過重な業務とは、日常業務(通常の所定労働時間内の所定業務内容をいう。)に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいう。
(イ) 評価期間
発症前おおむね1週間
(ウ) 過重負荷の有無の判断
特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、(1)発症直前から前日までの間について、(2)発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められない場合には、発症前おおむね1週間について、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同僚等にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。
具体的な負荷要因は、次のとおりである。
a 労働時間
b 不規則な勤務
c 拘束時間の長い勤務
d 出張の多い業務
e 交替制勤務・深夜勤務
f 作業環境(温度環境・騒音・時差)
g 精神的緊張を伴う業務
(b~gの項目の負荷の程度を評価する視点は別紙のとおり)
ウ 長期間の過重業務について
(ア) 疲労の蓄積の考え方
恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には、「疲労の蓄積」が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、その結果、脳・心臓疾患を発症させることがある。
このことから、発症との関連性において、業務の過重性を評価するに当たっては、発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から判断することとする。
(イ) 評価期間
発症前おおむね6か月間
(ウ) 過重負荷の有無の判断
著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同僚等にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。
具体的には、労働時間のほか前記イの(ウ)のb~gまでに示した負荷要因について十分検討すること。
その際、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであり、具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて、
(1) 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること
(2) 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること を踏まえて判断すること。
5 その他
(1) 脳卒中について
(2) 急性心不全について
(3) 不整脈について
(別紙)
労働時間以外の要因
就労態様 負荷の程度を評価する視点
不規則な勤務 予定された業務スケジュールの変更の頻度・程度、事前の通知状況、予測の度合、業務内容の変更の程度等
拘束時間の長い勤務 拘束時間数、実労働時間数、労働密度(実作業時間と手待時間との割合等)、業務内容、休憩・仮眠時間数、休憩・仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等)等
出張の多い業務 出張中の業務内容、出張(特に時差のある海外出張)の頻度、交通手段、移動時間及び移動時間中の状況、宿泊の有無、宿泊施設の状況、出張中における睡眠を含む休憩・休息の状況、出張による疲労の回復状況等
交替制勤務・深夜勤務 勤務シフトの変更の度合、勤務と次の勤務までの時間、交替制勤務における深夜時間帯の頻度等
作業環境 温度環境 寒冷の程度、防寒衣類の着用の状況、一連続作業時間中の採暖の状況、暑熱と寒冷との交互のばく露の状況、激しい温度差がある場所への出入りの頻度等
騒音
おおむね80dBを超える騒音の程度、そのばく露時間・期間、防音保護具の着用の状況等
時差 5時間を超える時差の程度、時差を伴う移動の頻度等
精神的緊張を伴う業務
【日常的に精神的緊張を伴う業務】
業務量、就労期間、経験、適応能力、会社の支援等
【発症に近接した時期における精神的緊張を伴う業務に関連する出来事】
出来事(事故、事件等)の大きさ、損害の程度等
80時間ないし100時間を超える時間外労働がない場合でも、労災(過労死)と認められますか。
認められる可能性があります。認定基準も労働時間だけを見る仕組みになっていないですし(ただし、行政の運用としては労働時間が足りないと切り捨てる傾向がありますが、そのような判断がなされたとしても争う余地が十分あります。)、以下のとおり裁判においては時間に偏重することなく過重性を判断して労災を認定しています。
札幌地裁平成18年2月28日判決(労働判例914号11頁以下・北洋銀行事件・なお、平成20年02月28日、札幌高等裁判所第3民事部において、控訴棄却で原審の判断を維持・最高裁ホームページ)
北洋銀行事件においては、裁判所が認定した時間外労働は以下のとおりである。
本件発症前1か月 17時間40分
本件発症前2か月 21時間10分
本件発症前3か月 56時間50分
本件発症前4か月 39時間50分
本件発症前5か月 50時間25分
本件発症前6か月 24時間40分
札幌地裁及び札幌高裁は、いわゆる新認定基準の認定要件を充足するとまではいえないものの、システム統合に関連する精神的緊張等の質的過重性を総合的に評価して、業務起因性を肯定している。
成田労基署長(日本航空)事件の千葉地裁判決(労働判例907号46頁)、並びに高裁判決(労働判例929号18頁・確定)
上記事件は、航空会社の国際便の客室乗務員のくも膜下出血発症につき、その業務の質的過重性を評価して業務上と判断している。
同事案は、発症前の就業時間が概ね月当り150時間前後、乗務時間は月当り70~80時間と、厚生労働省の認定基準に基づけば、週40時間を超える時間外労働を大きく下まわるどころか、労基法所定の週40時間を基準とする労働時間を下まわる労働時間しか認められない。
しかし、前述した高裁判決によれば、「専門検討会の報告書の趣旨とするところは、業務の過重性は労働時間のみによって評価されるものではなく、労働時間のほか、勤務の不規則性、拘束性、深夜業務を含む交替制勤務の状況、作業環境等の諸要因の関わりや業務に由来する精神的緊張の要因を考慮して、総合的に評価することが妥当であるというものである。」として、労働時間のほかの質的過重性について着目したうえ業務上と判断している。
その他時間外労働が80時間に達していなくても(時間外労働がほとんど無くても)質的過重性を重視もしくは量的過重性と質的過重性を総合評価して業務起因性を肯定した裁判例
時間外労働が月間30時間ら60時間足らずであったが、夜勤交替制等の質的な過重性を認めて業務起因性を肯定した京都上労基署長(大日本印刷)不支給処分取消請求控訴事件(大阪高裁平成14年(行コ)第101号、平成18年4月28日判決、直近の32日間の時間外労働は10時間足らずであったが、夜勤などの質的過重業務を根拠に公務起因性を肯定した地公災基金三重県支部長(伊勢総合病院)事件(1審:津地裁平成7年(行ウ)第12号、平成12年8月17日判決、労働判例800号69頁、控訴審:名古屋高裁平成12年(行コ)第41号、平成14年4月25日判決、労働判例829号31頁、確定)、50時間前後の時間外労働と夜勤交替制等の質的過重性を総合的に評価して公務起因性を肯定した後述の国立循環器病センター事件、直近6か月45時間を超える時間外労働が認められないが(0時間から最大で49時間)海外出張の過重性を評価して業務起因性を肯定したセイコーエプソン事件(東京高裁平成20年5月22日判決)等、多数存在する。
*従前の基準も生きている(災害主義、直前主義・1週間主義で救済される場合もある)
・あくまで行政基準でこれに当てはまらなくても、業務災害となる可能性がある。最高裁判例が行政基準を変えさせてきた。直前主義から長期の蓄積疲労(6ヶ月基準)の行政基準が変わってきている。
過労死・過労自死の労災認定に際しての労働時間はどのように算定されますか。
少なくとも裁判例においては形式や名称ではなく業務性質と中身を具体的に検討して関連業務を過重性評価の際の労働時間として考慮している。
以下のとおり、労働時間に含まれるかどうか(公務かどうか)は使用者の主張や形式的な制度によってではなく実際の内容によって決まる。
名古屋地裁平成19年11月30日判決(トヨタ自動車過労死事件労働判例951号11頁)→QCサークルに関する判断
自動車産業では品質改善や作業効率をあげるために労働者にQCサークルを組織させ業務終了後に労働者が「自主的に」活動しているという建前の基に業務改善に利用している実態がある。致死性不整脈を発症し死亡した事案について、裁判所は、被告が自主活動で業務ではないとの主張に対して、「創意くふう提案及びQCサークルの活動は、本件事業主の事業活動に直接役立つ性質のもであり、また、交通安全活動もその運営上の利点があるものとして、いずれも本件事業主が育成・支援するものと推認され、これにかかわる作業は、労災認定の業務起因性を判断する際には、使用者の支配下における業務であると判断するのを相当である」として、活動の中身を具体的に検討したうえで業務に該当し労働時間と評価している。
大阪地裁平成20年1月16日判決(国立循環器病センター事件・労働判例958号21頁)・大阪高裁平成20年10月30日判決・国立循環器病センター事件・労働判例977号42頁)→看護研究・勉強会などに関する判断
看護師(国家公務員)のくも膜下出血により死亡した事案について、国立循環器病センターが看護師に病棟の看護業務の改善を目的に「看護研究」や「勉強会」を行わせたり、「プリセプター業務」(新人教育)を時間外に行わせている実態があったところ、大阪地裁は、「クリティカル勉強会」「チーム会」「研修会」「病棟相談会」「看護研究」「プリセプター業務」といった本来の看護業務以外の活動について、公務と認めてこれらに要した時間を労働時間と評価した。
大阪地裁平成19年3月30日判決・労働判例972号63頁→研究活動に関する判断
麻酔科医の過労死の事案(損害賠償)について、裁判所は、医師の研究活動を業務命令の下で行われていたものではないが、「研究活動を行うことにより、麻酔科学、集中治療医学の進歩を把握して、府立病院の診療現場にその成果を反映して治療成績を向上させることは府立病院にとって大きな意義がある」などとして、研究活動を行うことにより「身体や精神にかかる負荷については、本件業務と死亡との因果関係の有無を判断するにあたって基礎事情として副次的に考慮する」として、過重性の評価の対象になることを認めている。
福岡地裁平成10年6月10日判決、判例タイムズ1002号191頁
→飲み会・接待に関する判断
業務終了後の上司・同僚・部下との飲食や取引先の接待に要した時間についても、それが業務に役立つと認められたり、会社が明示的に指示したり会社が経費を出している場合には、労働時間と認められる。書籍販売会社の営業部次長の過労死の業務上外事件において「原告が終礼終了後に営業部員を伴って飲食するのも社長の指示によるもので業務の延長というべきもの」として労働時間性を認めた。
基礎疾病が重い場合に過労死(労災)と認められますか。
過重労働があれば、基礎疾病は問題にならないのが原則である。
バレーボール事件(最高裁第2小法廷平成18年3月3日判決)は過重業務さえあるなら、基礎疾病は労災認定の阻害事由とはならない立場を示している。
*最高裁の判決における三要件
ⅰ 被災者の従事した業務が、同人の基礎疾病を自然経過を超えて増悪させる要因となり得る負荷(過重負荷)のある業務であったと認められること。
ⅱ 被災者の基礎疾患が確たる発症の危険因子がなくても、その自然経過により脳・心臓疾患を発症させる直前まで増悪していなかったと認められること。
ⅲ 被災者には他に確たる発症増悪因子はないこと。
の三要件が認められれば、従事した業務による負荷が、基礎疾患をその自然経過を超えて増悪させ脳・心臓疾患を発症させたと認められるとしている。
バレーボール事件の事案(基礎疾病の極めて重い事案)
発症当時43才の町教育委員会の主査(以下、Aという)が急性心筋梗塞を発症して死亡したケースである。
この事案の被災者は、最高裁判決によれば、「右冠動脈及び左回旋枝には閉そくが、左前下行枝には狭さくがそれぞれ認められ」ていたが、「Aの心臓疾患は、確たる発症因子がなくてもその自然の経過により心筋こうそくを発症させる寸前にまでは増悪していなかったと認める余地があるというべきである。」とし、「Aの心臓疾患が、確たる発症因子がなくてもその自然の経過により心筋こうそくを発症させる寸前にまでは増悪していなかったかどうかについて十分に審理することなく、Aの死亡とバレーボールの試合に出場したこととの間に相当因果関係があるということはできないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そこで、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。」
差戻し後の福岡高裁平成19年12月26日判決
Aの心臓疾患が、「確たる発症因子がなくてもその自然経過により心筋こうそくを発症させる寸前までは増悪していなかったかどうか」について詳細な検討を行っている。そのうえで、「Aの心臓病変は、昭和61年8月21日時点で、冠動脈の3枝のうち右冠動脈と左回旋枝が閉塞し、左室駆出率が25%と低下していたため、突然死の危険性が高いものではあったが、冠動脈のうち灌流域の最も大きい左前下行枝は閉塞することなく血流が保たれていた上、右冠動脈1番~3番、右冠動脈末梢~左回旋枝及び左前下行枝~左回旋枝末梢の側副血行が形成されていたため、左前下行枝の灌流域の心筋虚血や心筋の壊死が抑制されていたこと、そのため、Aは、昭和59年9月に職場復帰して以降、狭心症、心不全あるいは心筋梗塞の再発を起こすこともないまま、順調に公務を遂行し、昭和62年6月のマスターダブル運動負荷テストの結果も陰性で、平成元年11月のソフトボール大会にも参加走塁するなどしており、日常生活上何らの支障も上記心筋梗塞等の徴候も見られなかったものであって、平成2年5月12日の時点において、Aの心臓疾患が確たる発症因子がなくてもその自然の経過により心筋梗塞を発症させる寸前にまでは増悪していなかったことが認められ、本件バレーボール試合への参加により、Aの心臓に過重な負荷がかかり、これが直接的契機となって、心筋梗塞もしくは不整脈を起こし、突然死するに至ったものと認められる。」との判示した。
バレーボール事件の事案は蓄積疲労型というよりも災害型と言えるものですが最高裁判例は蓄積疲労型の労災の場合にも適用されますか。
国側は、バレーボール事件の事案は蓄積疲労に関する事案ではなく、バレーボールのスパイクなどといった災害型の労災の事案であるなどとして、蓄積疲労型の労災の場合には適用されないと主張する。
しかし、蓄積疲労型の労災にも適用があることが既に確定した解釈と評価できる。
蓄積疲労型の労災である大阪高裁平成20年10月30日判決・国立循環器病センター事件・労働判例977号42頁(上告せずに確定)及び福祉課の職員の過労死に関する大阪高裁平成20年12月18日公務災害逆転判決(上告受理申立について受理せずに確定・平均して50時間から60時間の残業)によって、最高裁の3要件の枠組みで判断し、特に後者については上告したが不受理となっており、最高裁も蓄積疲労型についても同じ枠組みで判断すべきと考えていると評価できる。
過重性は誰を基準に判断しますか。
日常業務を支障なくできる健康状態にある労働者であって、同じ勤務先の同僚ではありません。
自死(自殺)が労災とみとめられるのでしょうか。
「労働者が故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは、政府は、保険給付を行わない」(労災法12条の2の2)の「故意」による災害かという問題ですが、うつ病などの精神疾患に罹患すると自殺念慮が生じるので、業務によってうつ病等の精神疾患の発症が認められるのであれば、自死(自殺)であっても労災が認められます。業務とうつ病発症との間に相当因果関係があれば、因果の流れとして自殺との間にも因果関係を認める。
なお、業務によってうつ病等の精神疾患に罹患した場合でなくても、発症後の業務によってうつ病等が悪化して、自死に至った場合にも労災が認められる可能性があります。そもそも「故意」の自殺はあるのかという根本的な疑問があり、「覚悟の自殺」は観念論で実際には90%以上は精神疾患が背景にあるというのが一般的な理解であります。長時間労働などの過重業務やハラスメントとうつ病などの精神疾患発症との因果関係は医学的に承認されています。
現在の行政基準の詳細は以下のとおりです。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/120427.html
心理的負荷の強度を誰を基準に判断すべきでしょうか。
色んな説がありますが、とどのつまり、基礎疾病を有するものを含めての通常勤務に従事するものを基準とすれば、裁判実務においては議論の実益はない。通常勤務をこなしている場合には本人を基準にして差し支えありません。
未払の残業代は給付基礎日額に算入されますか。
労災が認定された場合、補償額を決める際に3か月間の平均賃金をもとに給付基礎日額が算定されて、これを基準に補償額が決まります。
平均賃金について条文の文言上は「これを算定すべき事由の発生した日以前3カ月間にその労働者に対し『支払われた』賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」(労災保険法8条1項・労基法12条)」とあり、「支払われていない」サービス残業代を給付基礎日額(平均賃金)に反映されていない場合がしばしばである。
一見些末な論点のように見えるかもしれないが、労災分野では本質的な問題(サービス残業によって追いつめられ過労死・過労自殺している場合が多いのに、サービス残業代が支払われていないからといって給付で労働者本人ないし遺族に不利益な取扱をするのは使用者の違法行為を国が追認する結果となる)かつ実益のある議論(給付額が大きく変わる。サービス残業が100時間を超えている事案では給付額が倍近くになることもある。)
当職が関与した先例(労働保険審査会の逆転裁決)において、支払われていなくても賃金として確定していれば、給付基礎日額に算入しなければならないというのが行政の基準となっている。
不当に左遷され給与が大幅に切り下げられるなどのハラスメント、降格などによって精神疾患を発症して、労災と認められた場合、その際の給付基礎日額は切り下げ前か切り下げ後の給与を基準どちらになるのでしょうか。
切り下げ前を基準とすべきである。精神疾患の原因を業務として認定しておきながら、不当な切り下げを追認する結果となり、不当な結果となる。切り下げ前を基準とした行政の先例がある。
労災が認められた場合、勤め先に労災では足りない補償を求めて損害賠償をもとめることができますか。
労災では慰謝料はありませんし、休業・逸失利益も満額は出ません。このように労災認定を受けても全ての損害が補償されるわけではないので、損害賠償請求できます。
労災がだめでも(行政の枠組みでは認められにくい事案であっても)損害賠償請求できる場合がありますので、あきらめずに弁護士に相談して下さい。
波多野が担当した積善会事件(大阪地裁平成19年5月28日判決・判例時報1988号47頁)はそのような事件でした。
安全配慮義務違反という言葉がよく出てきますが、どのような内容でしょうか。
陸上自衛隊八戸事件・最高裁昭和50年2月25日等によると、安全配慮義務とは「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った当事者間」において信義則上、相手の生命と健康に配慮する義務とされています。「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った当事者間」と認められる限り、請負、下請けなどの重層的な関係、派遣先と派遣元でも安全配慮義務が肯定されています(ニコンアテスト事件・近時高裁判決も・過労自殺事件)。
医師であっても過労死や過労自死に追い込まれた場合に、使用者に損害賠償請求できるのでしょうか。
できます。医師は専門職で裁量性のある職業であると考えられていますが、目の前の患者を前にして実際には仕事を断れず、過重な業務についているケースはしばしばで、それは普通の労働者と何ら変わりありません。関西医大事件や積善会病院事件が先例としてあります。
前述の電通最高裁判決が最も重要
「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」
長時間労働そのもの回避するよう、労働時間、休憩、休日について適切な労働条件を確保する義務
→業務量・人員配置を決めるのは使用者であって、労働者は調節できない。
過労死の労災基準を充たす過重業務→使用者の義務違反は認められるのが一般
疲労による居眠り運転→運転が業務そのものはもちろん(御船運輸事件)、大学院生医師のアルバイト先(鳥取地裁判決)への移動中の居眠り運転も安全配慮義務違反となる。
部長などの職制が高い労働者、医師のような専門職でも使用者の義務違反は認められますか。
認められる。前述のおかざき事件の民事賠償事件(行政事件とは別)では専務取締役の過労死の事案において、一審は裁量性を理由に責任否定したが、控訴審では逆転して、義務違反を肯定した。
積善会事件(大阪地裁平成19年5月28日判決・判例時報1988号47頁・麻酔科医の過労自殺)前述の大阪地裁平成19年3月30日判決・労働判例972号63頁(麻酔科医の過労死)でも当然肯定されています。
勤務医も診察(業務)を拒めない点では一般労働者と何ら異なるところはない。
→24時間オンコール、宿直、36時間連続勤務、未払残業代
重い基礎疾病がある場合でも使用者に損害賠償請求できますか。
労働者は様々、基礎疾患を持っている労働者は少なくない。使用者は病状に応じた配慮をすべき義務がある。
南大阪マイホームサービス(急性心臓死損害賠償)事件(大阪地裁堺支部平成15年4月4日判決、労働判例854号64頁・判例時報1835号138頁・控訴後、控訴取下げ・確定)は以下の通りの判断をしている
過労死(基礎疾病:拡張型心筋症を有する被災者の事案)の事案につき、最高裁電通過労自殺判決の前記判示部分を引用したうえで、「被告乙山は、遅くとも平成10年2月27日のO医師による保健指導実施時点までに、亡太郎が心電図につき要医療との診断を受けていることを認識し得たし、また、亡太郎の就労状況の実情についても知悉していたのであるから、被告乙山としては、亡太郎の就労が過度に及んでいないかにつき、タイムカードの記載の確認や亡太郎に対する直接の事情聴取などを行うほか、亡太郎の健康を保持するために必要な措置につき医師から個別に意見を聴取するなどして必要な情報を収集し、亡太郎の携わっている業務の内容や量の低減の必要性やその程度につき直ちに検討を開始した上、亡太郎の就労を適宜軽減し、亡太郎の基礎疾患(拡張型心筋症)の増悪を防止して、亡太郎の心身の健康を損なうことがないように注意すべきであったということができる。」と判示している。
空港グランドサービス・日航事件(東京地裁平成3年3月22日判決、判例時報1382号29頁)は腰痛の損害賠償事案で、腰痛を発症した労働者について本人の承諾、希望の有無にかかわらない嘱託医による診断に基づく勤務時間または作業内容の変更措置義務、管理体制確保義務等、健康状態に応じた適切な休養付与および配置等についての安全配慮義務を認めている。
石川島興業事件(神戸地裁姫路支部平成7年7月31日判決・労働判例688号59頁、大阪高裁平成8年11月28日判例タイムス958号197頁)は 休業から職場復帰後の職務と安全配慮義務をめぐる事案で、健康を害した労働者が、当該業務にそのまま従事するときには、健康を保持するうえで問題があり、もしくは健康を悪化させるおそれがあると認められるときは、使用者は、労働者からの申出の有無に関係なく、当該業務から離脱させて休養させるか、他の業務に配転させるなどの措置をとる契約上の義務を負い、被告は、職場復帰後2か月後に急性心不全で死亡した労働者の健康状態に応じて時間外労働等を禁じ、作業量・時間を制限し、それでも十分でない場合には職種を転換させる等の措置を講じるべき義務に違反したとして使用者に賠償責任を肯定した。
積善会事件(大阪地裁平成19年5月28日判決・判例時報1988号47頁)は被告が上司麻酔医の業務と比べて過重でないとの主張に対して、既往症の再発以後の被災者の病状、うつ病発症後の被災者の症状を具体的に認定したうえ、被災者の症状は、「業務に著しく支障を来す程度に悪化していた」と判断するとともに、被災者の当時のうつ病の症状を前提に、拘束時間が長時間であること、麻酔医の業務が人の生命・身体に重大な結果をもたらすおそれがあり精神的な緊張を強いられること、緊急手術などのために呼び出しを受けるため心理的に業務から完全には解放されない等といった業務の負担が相当過重で、「通常の心理状態でない被災者」にとって、上記業務は「明らかに過重」であると判断した。
さらに、同事件判決は、被告病院における被災者の業務は、労働時間の質量とも決して軽いものではないこと、被災者の上司が被災者のうつ病の症状が悪化していると認識し、被告病院における業務を継続させることは困難であると考えていたこと等からすれば、「被告病院としては、休職を命じるか、あるいは業務負担の大幅な軽減を図るなどの措置を執り、十分な休養をとらせるべき注意義務を負っていた」と判断した。
同事件は当該被災者の病状(業務によって発症したかどうかは問題ではない)に応じて当該業務が重いかどうか、就業制限・就業禁止をすべきかどうかを判断すべきという当然のことを判示している。
榎並工務店事件(大阪地裁平成14年4月15日判決・労働判例858号105頁、大阪高裁平成15年5月29日判決・労働判例858号93頁)は、「労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、労働者との間の雇用契約上の信義則に基づいて、業務の遂行に伴う疲労が過度に蓄積して労働者の健康を損なうことがないよう、労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等について適正な労働条件を確保し、さらに、健康診断を実施して労働者の健康状態を的確に把握し、その結果に基づき、医学的知見をふまえて、労働者の健康管理を適切に実施した上で、労働者の年齢、健康状態等に応じて従事する作業時間及び内容の軽減、就労場所の変更等の業務内容調整のための適切な措置をとるべき義務を負う」として、使用者が労働者の健康状態を把握することと医学的知見をふまえて適切な措置をとらなければならないことが明言されている。そして、榎並工務店事件1審判決は「産業医を選任せず、医師の意見も聴取しなかった」ことも使用者の義務違反の内容として認めている。
NTT東日本北海道支店事件(札幌地裁平成17年3月9日判決・労働判例893号93頁)は、陳旧性心筋梗塞の既往症があり,合併症として高脂血症に羅患していたことを前提に,労働者に対して指導区分「要注意(C)」の指定をし,原則として,時間外労働や休日勤務を禁止し,過激な運動を伴う業務や宿泊を伴う出張をさせないこととしていたのであるから,その例外事由としてのやむを得ぬ理由があるかどうかの組織の長と健康管理医との協議に際しては,労働者のその後の治療経過や症状の推移,現状等を十分検討したうえで時間外労働や宿泊出張の可否が決定されるべきであったとされた。そして、同事件では「本件研修に一郎を参加させるか否かを決定するに際して,市立旭川病院のカルテを何らかの方法で取り寄せるとか,少なくとも主治医であるH医師からカルテ等に基づいた具体的な診療,病状の経過及び意見を聴取するなどしておけば,その間題点に気付いたと考えられ,同病院における次の診察予定が3か月後であることから,主治医としては,通常の生活を続ける限り特段の問題はないと判断した可能性はあるとしても,宿泊を伴う長期間の本件研修に参加させるか否かを決定するに際してはより慎重な対応が必要であったというべきであり,そのための手だてを講じるのが相当であったというべきである。」として、主治医の意見をもとに労働者の病状を正確に把握したうえで具体的な措置を講ずる義務が使用者にあるとしている。
ギオン(日本流通企画)事件(千葉地裁平成17年9月21日判決、労判927号54頁以下)は、 MDS(骨髄異形成症候群)に罹患している労働者に対し、使用者がその罹患の事実を認識していた事案において、過重業務と既往症であるMDSによって、黄色ブドウ球菌性肺炎に罹患し、それが重症化し、死亡するに至ったと因果関係を肯定したうえ、「被告は亡Eが、長時間労働等による過重労働の状態にあり、しかも、亡EがMDSに罹患していて毎月検査を受けていることを知っていたのであるから、配送担当者を増員する措置を講じるなどして亡Eの負担を軽減し過密労働を緩和するよう配慮すべき義務があったにもかかわらず、これを怠ったため、黄色ブドウ球菌性肺炎に罹患させ死亡させたのであるから、被告には雇用契約上の付随義務である安全配慮義務に違反した債務不履行があると言わなければならない」と判断している。
ギオン事件においては、使用者が認識していたのは、MDSの罹患の事実と過重労働の認識であれば、両者が相まって「黄色ブドウ球菌性肺炎」を発症するなどして死亡したとしても、それだけで十分予見可能性があるという判断をしている。〒530-0047
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